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静岡地方裁判所 平成6年(わ)296号 判決 1994年10月19日

本籍

静岡県榛原郡相良町須々木八三〇番地

住居

右同

鉄工業

増田三三生

昭和一九年九月一九日生

主文

被告人を懲役一年及び罰金一四〇〇万円に処する。

右罰金を完納することができないときは、金四万円を一日に換算した期間、被告人を労役場に留置する。

この裁判確定の日から三年間右懲役刑の執行を猶予する。

理由

(犯罪事実)

被告人は、静岡県榛原郡相良町須々木八三〇番地に居住し、同所八三一番地の一において、「増田鉄工所」の屋号で鉄工業を営んでいたものであるが、自己の所得税を免れようと企て

第一  平成二年分の実際の総所得金額が六二八八万八一三二円であり、これに対する所得税額が二六二四万八五〇〇円であったのにかかわらず、平成三年三月一五日、静岡県島田市扇町二番の二所在の所轄島田税務署において、同税務署長に対し、平成二年分の総所得金額が六六一万〇三二七円であり、これに対する所得税額が五〇万三八〇〇円である旨の内容虚偽の所得税確定申告書を提出し、もって不正の行為により、同年分の正規の所得税額と右申告税額との差額二五七四万四七〇〇円を免れ

第二  平成三年分の実際の総所得金額が五八〇四万一五〇八円であり、これに対する所得税額が二四〇五万二〇〇〇円であったのにかかわらず、平成四年三月一一日、前記島田税務署において、同税務署長に対し、平成三年分の総所得金額が七二四万八六五七円であり、これに対する所得税額が七二万二四〇〇円である旨の内容虚偽の所得税確定申告書を提出し、もって不正の行為により、同年分の正規の所得税額と右申告税額との差額二三三二万九六〇〇円を免れ

第三  平成四年分の実際の総所得金額が二八六五万二二六一円であり、これに対する所得税額が九三二万三五〇〇円であったのにかかわらず、平成五年二月二五日、前記島田税務署において、同税務署長に対し、平成四年分の総所得金額が五九八万七四五五円であり、これに対する所得税額が四五万六四〇〇円である旨の内容虚偽の所得税確定申告書を提出し、もって不正の行為により、同年分の正規の所得税額と右申告税額との差額八八六万七一〇〇円を免れ

たものである。

(証拠)

全部の事実について

一  被告人の当公判廷における供述

一  被告人の検察官に対する供述調書

一  被告人の大蔵事務官に対する質問てん末書八通

一  増田八重子、佐藤鋭彦(二通)、三輪孝弘、芦沢正一、紅林保雄、西和子、植田清の大蔵事務官に対する各質問てん末書

一  大蔵事務官作成の査察官調査書一五通

一  検察事務官作成の電話聴取書

第一の事実について

一  大蔵事務官作成の脱税額計算書(平成二年一月一日から同年一二月三一日までの期間についてのもの)

一  大蔵事務官作成の平成六年四月七日付証明書(平成二年分の所得税確定申告書の写に関するもの)

第二の事実について

一  大蔵事務官作成の脱税額計算書(平成三年一月一日から同年一二月三一日までの期間についてのもの)

一  大蔵事務官作成の平成六年四月七日付証明書(平成三年分の所得税確定申告書の写に関するもの)

第三の事実について

一  大蔵事務官作成の脱税計算書(平成四年一月一日から同年一二月三一日までの期間についてのもの)

一  大蔵事務官作成の平成六年四月七日付証明書(平成四年分の所得税確定申告書の写に関するもの)

(法令の適用)

被告人の判示各所為は、いずれも所得税法二三八条一項に該当するが、各罪についていずれも所定刑中懲役刑及び罰金刑を選択し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、懲役刑については同法四七条本文、一〇条により犯情の最も重い判示第一の罪の刑に法定の加重をし、罰金刑については同法四八条二項により各罪所定の罰金額を合算し、その刑期及び金額の範囲内で、被告人を懲役一年及び罰金一四〇〇万円に処し、右罰金を完納することができないときは、同法一八条により金四万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置し、情状により同法二五条一項を適用して、この裁判の確定した日から三年間右懲役刑の執行を猶予することとする。

(量刑の理由)

被告人は、売上除外という方法で、判示のとおり三年間にわたって合計一億二九〇〇万円余の所得を秘匿して確定申告を行い、合計五七九四万円もの多額の所得税を免れていたもので、ほ税率も九七パーセントを超える高率であって、たとえその動機が将来の老人用施設建設のための資金造りや大口の取引先からの未収金の増大などにあるとしても到底許されるものではなく、誠実な納税者の納税意欲を害する点からも犯情は極めて悪質といわねばならない。

しかしながら他方、被告人は査察を受けるに至った後は、犯行を反省して取調べに対しても素直に応じ、捜査に協力をしていること、今後は事業を法人化して、税理士の指導のもとに経理処理を改善し、正しく納税する旨誓約していること、すでに本件で免れた本税の他に、判示各年度分の重加算税、延滞税、事業税及び消費税関係の諸税などで四〇〇〇万円を超える金額を納付済みであること、被告人はこれまで地域の消防団や公民館、PTA活動に積極的に携わってきたもので、勿論前科もなく、今回が初めての公判請求であることなど酌むべき事情もあるので、これらを勘案して主文のとおり量刑判断をしたものである。

(検察官匹田信幸、弁護人天野保雄各出席)

(求刑 懲役一年及び罰金一八〇〇万円)

(裁判官 西島幸夫)

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